Scene
 

 

 

とある町のとある風景 その 6
 

 

 

 


 「凄いだろうこれ。俺の恋人さ」 恋人だって? 「そうさ、海に行く時はいつも一緒さ。俺の言うことを、よく聞いてくれるんだよ」彼は、手を休めて言った。

「愛する俺の恋人さ」と、大きく手を広げて、壁に立て掛けられた数本のサーフボードを、自慢げに見せる。余程、サーフィンが好きらしい。

彼は又、床に置いてあるサーフボードに、両手でワックスを塗り始めた。大きなワックスである。

何故、ワックスを塗るんだい? 単純な疑問が湧いてきた。「ああ〜 これね。ボードの上に乗っている時、波が来たら滑り易いだろう。ねっ、ボードに被さった水の上に立つと滑る。それを防ぐ為に、ワックスを塗るって訳よ。解るだろう、これで安定した波乗りができる」 成る程と納得した。

「これが済んだら、海に行くんだ。一緒に行こうか。みんなを誘って」 良いねえ、行こう。

「皆に、集合をかける」 うん、分った。

2台に便乗して、出かけることになった。海までは直ぐである。

駐車場に車を停めて、着替えを済ませると、海辺まで歩いた。彼の持つ、サーフボードが、重そうに見える。長く続く白い砂浜が、目の前に現れた。

泳ぎを楽しむ人達で、海辺は、ごった返している。「コンディションは、最高だな」サーファーに、覆い被さるように、押し寄せて来る波を見て、彼は言った。「私達は、この辺で・・・・・」空いている場所を見つけた彼の恋人が、言った。「ああ、分った」と言って、彼は海へとまっしぐらである。

「じゃあ、俺達はここで、彼の技でも見物しようか」彼女達の敷いてくれた、タオルの上に腰をかける友達である。

「オイルを塗るわ」彼女達は、日光浴をしようということらしい。「悪いけど、塗ってくれる」上の水着を下げて横に寝転んだ彼の恋人が、オイルを渡して言った。俺、塗ったことないんだよ。・・・女性の体を触るなんて、恥ずかしくて塗れたものではない・・・

「つべこべ言わないの。塗るだけだから・・・」男達三人は、彼女達4人のオイル塗りに借り出されることとなった。

「参っちゃうな。何の為に海に来たか分んないな」「彼は、かっこ良く波に乗っているじゃないのさ」彼等もまた、愚痴りながら彼女達の背中に、オイルを塗っている。

彼は、覆い被さろうとする大きな波を避けながら、波に乗っている。オー、シュガー。「何だいそれ」 叫びたくなったら、そう言えってさ。「誰が?」波に乗ってる彼がさ。汚くなく。甘いだろう。

「ふうん・・・オー、シュガーってね」

 

貿易船の停泊している岸壁には、釣り糸を垂らす釣り人が多くいた。若い恋人同士や家族連れ等である。友と海辺を散歩するのも楽しいものだ。

「少し見ていこう」彼が言った。 ああ、良いよ。・・・何という魚だろう。小魚が、結構釣れている。やあ、小父さん。釣れますか。と一人で釣りを楽しんでいる御老人に声をかけた。

「見なよ。釣れるよ」御老人に言われて、クーラーボックスを開けて見た。少し大きめの魚、小魚と色とりどりの魚が入っている。やるじゃないの、小父さん。

「朝から、それだけさ。何にもする事ないからね、釣り三昧さ」へえ〜 朝から晩まで釣りをやっているんですか?

「そうだよ。仕事は、もう引退さ」 えっ、まだ若いのに引退なのですか? 「若いの、嬉しいことを言ってくれるね。ほら、もう、お爺さんじゃないか。スクラップも良いとこさ」

そうは、見えないよ。元気じゃないの。何をなさっていたんですか? 「医者さ。外科医だった」そんな、引退なんて勿体無い。釣り竿は、ちゃんと持っているじゃないの。メスを持てない訳ないでしょ?

「手術は、出来るが。若い者に任せた方が良いのさ」 何を言っているの、ドクター。あなたの価値ある経験を、次の世代に伝えたいとは思わないんですか?「そう云うことも思った。しかし、こうやってのんびりするのも楽しい。そうだろう」うむ〜、いくら言っても無駄のようだ。・・・何かあったのだろうか? いや、これ以上詮索するのは、止そう・・・・・。話は、尽きなかった。もう、すっかり、仲良しになっていた。

「向こうも釣れているよ」友達が、引き返して来た。「お二人さんよ。夕食を一緒にどうだい?

「えっ、宜しいんですか。はい、喜んで・・・」

「ああ、良いよ」「じゃ、その魚、私が料理します」また彼が言った。元、ドクターは、微笑んだ。元ドクターの家で、夕食をご馳走になることになった。

「今日は、君達に逢えて、ラッキーだったよ。さっ、行こう」

 

 何時間、車を走らせただろうか。茶色の山々が、異様に見える。砂漠地帯に入って来たと誰かが言った。何もない同じ風景が、限りなく続く。一直線に続く道を、運転するのも大変だ。「変わろうか?」と、もう一人の彼が言った。「大丈夫さ。慣れているよ」

随分と遠くまで来たようだ。5人乗りの車は、一杯で窮屈だ。ガスステーションの建物が、何もない道路沿いに見えている。「あそこで、オイルを補給しよう。休息にもなるし」車は、ガスステーションの中に入って行く。無人の建物は、回りの景色も手伝って薄気味悪い。セルフサービスである。車から降りて、背伸びをしたり、ジュースを飲んだりと体を休める。オイルを補給して、車は又走り出した。10分ぐらい走っただろうか。車が、急に振動を起こして揺れだした。「おおっ、どうしたんだい」「パンクだよ。ついてないな」・・・パンクだって・・・。車は、スピードを落として、道路の端に止まった。

タイヤの取替えは、直ぐであった。「モーテルに、泊まるのも面白くないな。折角来たんだ、この近くで、野宿するというのはどうだい?」「良いねえ」夕暮れである。少し行った所に小さな町があるらしい。が、反対する理由もなく、彼らに従うこととなった。

野宿をする適当な場所を探しながら、車をゆっくりと走らせる。「あそこが良いじゃないか」

大きなサボテンの側に、車が止まった。近くには、木々が生えている。小さな池もあった。

「よしっ、ここにしよう。皆、良いね」「良いよ」「薪を探そう」「分った」手分けして、薪探しである。

暫くして、「うわっ〜! !」と、誰かの叫び声が聞こえた。「何だい。どうしたんだい?」叫び声のした方向へと、急いで近付いて行った。皆も驚いて、集まって来る。

「どうしたんだい。大声なんか出して」「蛇、蛇、コブラだ」「うっ、コブラ? ちょっと待て」ナイフをポケットから取り出して、「見てろ」と友は、薄ら笑いを浮かべる。ゆっくりと近付き、ナイフを投げた。ナイフは、一瞬にしてコブラの首をはねていた。「おおっ! !」どよめきが起こった。

「もう大丈夫さ。こんな事もあろうかと、ナイフを持って来ていて良かったよ」「コブラには、参るよね」「おい、コブラだけじゃないぞ。サソリもいるぞ」「えっ、サソリも」 こんな所で寝るのは怖いと言いながら、薪を集める。焚き火をしていれば大丈夫だと説得されて、そこでキャンプを張ることになった。

 

                    [ページの先頭に戻る]

 

 

 

 

Home contents

What’s new?

BBS

Mail

Scene5 Back

Next